取組事例インタビュー

特別対談「やらないこと」を決めることがデジタル化の第一歩
― アンケート結果から見えてきたちょっと先の未来について語ります ー

特別対談「やらないこと」を決めることがデジタル化の第一歩
日本管理センター株式会社
常務執行役員 十河浩一さん(写真左)
Wealth Park 株式会社
営業部 SaaS事業部 部長 石村裕樹さん(写真右)
取材日:2021年2月5日
―― 「不動産業界のニューノーマル取り組みアンケート」を実施した背景と理由について教えてください。

石村 ものすごいスピードで価値観が多様化していく中で、例えば大きな災害が起きた時でも、今回のコロナのような未体験の事態が発生した時でも、そして平時であっても、生活と直結する管理業を営んでいる管理会社様は、継続して事業を行うことが求められます。

十河 管理業にとって、安定供給と持続可能は絶対的なテーマ。ですから、今回「不動産業界のニューノーマル取り組みアンケート コロナ編」を実施したのは、BCP的な観点からも、業界にどういった取り組みが必要なのかということを検証したいという狙いがありました。

【アンケート概要】
実施期間 : 2020年 10月 15日 ~ 27日
配信社数 : 1669社(日本賃貸住宅管理協会会員企業)
回答総数 : 197名
―― アンケート調査を実施するにあたり、まず行ったのが、テレワーク、リモートワークの再定義だったそうですね。

石村 われわれ不動業においてのテレワーク、リモートワークを考えるとき、まず、「出社しなくてはいけない仕事」、「出社しなくてもいい仕事」とで分ける必要があると、助言をいただきました。その上で、後者の「出社しなくてもいい仕事」をさらに、「在宅でできる仕事」、「外注でできる仕事」、「自動化でできる仕事」とに細分化していく作業も必要でした。そしてこれらをさらに、賃貸仲介と賃貸管理とで分けて考えていきました。

アンケート調査を実施するにあたり、まず行ったのが、テレワーク、リモートワークの再定義だったそうですね。
―― 197人から得た回答を見て、特に印象に残った内容を教えてください。

石村 これは予想通りでしたが、「出社しなくてもいい仕事」は、「会議・打ち合わせ」がトップで、22%という結果でした。

197人から得た回答を見て、特に印象に残った内容を教えてください。

十河 実感できる数字ですね。弊社がオンラインの会議システムを導入したのは5〜6年前です。しかし使用していたのは、出張でその場にいられない人が「仕方なく」「やむを得ない」といった理由からだけでした。決して積極的ではなかったのですが、今では当たり前になっています。

石村それまでテレビ会議システムなんていうのは、大きな組織で設備も揃った企業の幹部が使うイメージがありました。それが、10月の時点で22%になっているのは、それ以前がほぼゼロだったことを考えると、劇的な変化だと思います。10月は1回目の緊急事態宣言の半年後ですから、さらに半年経ったときは40%くらいになっていてもおかしくありません。移動にかかるコストについても、目に見えて削減できたと思っている経営者の方は多いと思います。

十河アンケート結果を見る前は他社の動向が全く分からなかったので、それを知ることができたのは大きかったですね。もちろん今後このパーセンテージは増えていくとは思います。「リモートでも会議はできる」ということに経営層が気付いたことは大きな転機になったと思います。

石村まさにそうですね。地域や業種、管理会社の規模感によって、「できること」「できないこと」、また「やること」「やらないこと」があるのは構わないと思います。しかし、もし「できるのにやっていないこと」があるのならば、それはぜひやっていただきたいと思います。しかし、どこまで何をリモートにするか、その「さじ加減」が難しいもの。だからこそアンケートで他社の状況を見ながら、自社の仕組みに落とし込んで行けたらいいのかなと思います。

―― 今回、「退去立ち合い」をどうしているかで、アンケート結果が別れました。多くの業務がリモート化、無人化されているのに対し、「退去立ち合い」は60%が通常通り実施しているという結果になりました。

十河「どんなふうにしたら立ち会いをやらずに済むの?」というのが皆さんの気になるところですよね。60%が立ち合いをしたという結果を見て僕が思ったのは、「コロナ対応を行う業務」について、入り口の部分、つまりリモート案内とか非対面接客とかはみんな考えているけれど、退去の場面、つまり出口の部分でのリモート対応はそれほど進んでいないということです。お客様を迎え入れる態勢については、消毒、検温、シールド、さらには予約制、セルフ内見とかは着手しやすかったのだと思いますが、退去時のコロナ対策については手付かずの印象です。

石村やはり10月の段階では、意識が「入り口」に向かっていたのでしょうね。ある神奈川の管理会社では退去立ち会いについて、鍵の返却ポストを作っていました。レンタルビデオの返却ボックスのようなものを会社に設置したそうです。これは大きなヒントだと思いましたね。例えばビジネスホテルの業界では、鍵の返却ボックスを作ってチェックアウトの無人化、自動化を図りつつありますが、そういう流れを賃貸業界でも参考にしてもいいかもしれませんね。

―― 「入り口」「出口」「入居中」で分けて対策を考えていく、ということですね。
「入り口」「出口」「入居中」で分けて対策を考えていく、ということですね。

石村 これは、「自社でやるべき業務」か「外部委託する業務」か「自社と外部でやる業務」か、というテーマで議論できる内容だと思います。例えば「入居中」のコールセンター業務がそうです。自社でやるのかプロに委託するのか?実は、コロナ禍で在宅時間が長くなったことで、コールセンターにかかってくる電話の件数が増えているそうなんです。それでコールセンターが非常にひっ迫した状況にあったと聞きますが、他方で、入電後の出動についてはしやすくなっているという話があります。普段であれば日中家にいない人達がいてくれるので、夜間や週末の出動は減っているらしいです。こういった事象も鑑みながら、「外部委託」する仕事か否やかについては考えていく必要がありますね。

十河どうしても業務をする側の目線や立ち位置で考えがちなところがあるけれど、一番大事なのは「お客さん側の目線」。コロナ対応は初めてのことが多いけれど、その分お客さんがどう思うかを先回りして考えることが不可欠ですよね。例えば、仲介店舗の店づくりで、店内のポスターとか感染防止フィルムとかあるけれど、提供する我々側ではなく、お客さん側の座席に座って考える姿勢が問われていると思いますね。

石村冒頭で多様化する価値観と申し上げたのは、まさにそこの部分です。お客さんの要望は本当に多岐に渡っていますし、どんどん変化しているので、そこにいかに応えていくかというのはとても大事なことですね。

十河ポータルサイトも「オンライン対応」で検索できるようにしているでしょう。仲介会社も例えばLINEでやりとりができますよとか先んじて打ち出していく必要があると思います。

石村結局、学生さんも法人の方々もオンラインが日常になっていて、小学生でもオンラインで勉強している時代です。こういった方々に部屋探しの時には繁忙期の仲介店舗にいき、長蛇の列に並んでくださいというのは、難しくなっていくかと思います。

―― IT化やオンラインが進む中では、高度なITスキルが必要になってくるのでしょうか。

石村オンラインというと、様々な高額なITシステムを導入しないとできないと思っている企業も多いですが、私個人の意見としては、今すでに持っている無料ツールでも十分対応できると思っています。例えば、LINE、Zoom、Google Meet、YouTube、Evernote、Dropbox、Googleマップ、Adobe Scan、いらすとや、などなど、いくらでも無料で使えるツールがあふれています。それらをまず使ってみることが、お客さんの価値観に応える第1ステップなのかなと思っています。

十河実は、僕らは普段からそういった無料のテクノロジーを使って生きているのかもしれませんね。高い費用をかけてシステムを入れても、結局社員さんが使いこなせなかったり、そのこと自体が負担になったりすることもあるけれど、無料で普段使い慣れているツールでいいというのは浸透のスピードが違ってくるでしょうね。

石村その通りだと思います。例えば普段使っているGoogleの中にある、Googleフォームを使えば退去受付フォームを作ることもできます。それをGoogleスプレッドシートに飛ばせば簡単に退去者リストが作れます。

十河賃貸業界ではIT重説がなかなか普及していないと問題になっていますが、普段使っているツールで行えることが分かっていけば、会社で指示をせずとも、若い人ほど自ら工夫してどんどん取り入れていくようにも思いますね。

石村まずは「今日から日報は簡単にしよう」、でいいんです。GoogleのWorkspaceに様々なツールがありますが、例えばChatとSheetsをクラウド上で利用すれば、日報を書くために、わざわざ出先から会社に戻ってパソコンを開き書くことがなくなります。夕方に書いた日報を部長さんが夜に見るということも無くなります。また、その日に発生したことは起きた瞬間にリアルタイムで報告されるようにもなり、報告されるまでの間に時差が生まれることも無くなります。業務効率化はこんな身近な仕事からできるんです。

十河不動産テックの流れを見ていると、RPAを入れること、テック商材を導入することが目的になってしまう感じもあるので、このコロナ禍を、真のデジタル化、について考える機会にしていけたらいいですね。

石村私は、「これをやりたい」、ではなくて、「これをやらない」と決めることが、デジタル化の第一歩だと思っています。実際、管理職の方なのに事務処理に追われている方がたくさんいます。本当はやらなくていい仕事もあると思うんです。だからやらないことを決めて減らしたり、それがロボット化できることであるならロボットに任せる判断していくのが大事だと思います。コロナ禍で、一個一個業務を見ていくと、「ああ、これ、無駄だったな」っていうことにたくさん気付けているのではないかと思います。仕事の棚卸しをして、その後平準化して、それからデジタル化するものはデジタル化して、プロセスをデジタル化する。その次に来るのがDXだと思います。

十河やらないこと、またはやめることを決めることで、新しい分野で力を発揮できる社員さんが出てくるかもしれませんよね。例えば事務関連の仕事をしている人がもっとクリエイティブな分野で活躍したりとか。特に女性社員さんにそういうふうに開花する人が出てくるのではないかとも思っています。

石村私もDXを促進したい理由はそこにあります。全体の効率が上がり、社員さん一人ひとりの生産性が上がれば、会社全体の売り上げ・利益が高まります。そうすれば基本給だって上がるでしょうし、そうなれば余計な残業をする必要はなくなります。

IT化やオンラインが進む中では、高度なITスキルが必要になってくるのでしょうか。

十河これはすべての会社に共通すると思うのですが、IT化とか、自動化、 デジタル化というのは、我々の業務が楽したところで終わっちゃ駄目だと思うんです。すべてはやはりお客様のほうを向いていないといけないわけであって。そこで効率化された分をいかにお客様へのサービスや商品開発につなげられるかが肝。もちろん利益は落とさずに、ですが。効率化されれば、その分その企業のサービスの拡充や差別化に力や時間を割けるようになりますね。

―― コロナ禍によって生まれたニューノーマルが不動産の現場の仕事の在りようを大きく変えようとしていることが分かりました。お二人の話に何度も出てきたのは、「お客様目線」と「多様化する価値観」。業務の効率化をはかりながら、継続してサービスを提供していける仕組み作りが始まっています。

PICK UP

日管協 公式SNS

PAGE TOP