取組事例インタビュー

管理戸数119万戸の巨人
― 即断即決で未曾有の事態乗り切る ー

管理戸数119万戸の巨人
大東建託パートナーズ株式会社(東京都)
取締役 松本興喜さん(写真左)
事業戦略企画室 橋本昌史さん(写真右)
取材日:2021年3月9日

管理戸数

管理戸数

社員数

社員数
―― 大東建託パートナーズといえば、管理戸数は119万戸で、誰もが知る管理戸数ナンバーワンの企業ですが、昨年の緊急事態宣言が発出された時、ズバリ何を最初にされましたか。

松本取締役2020年の4月7日、緊急事態宣言の発出に合わせ、まず初めにやったことは、宣言が出た7都府県の管理物件と、それ以外の地域の物件とを分けることでした。また同日、7都府県下の事業所は全て閉鎖しました。閉鎖事業所に勤務する社員は、基本的に在宅勤務とし、入居者様からの問い合わせがあれば、自宅から現地へ直行直帰する形としました。
マスコミ報道等で緊急事態宣言が出るという話はあったため、発表以前に、大東建託グループ主要3社で新型コロナ対策室を設置し、これらのことについては事前に対策を詰めていました。
緊急事態宣言が全国に拡大した4月20日には、7都道府県をのぞく全地域で出社比率を50%に抑える指示を出しました。

宣言対象地域(7都府県)の管理戸数 : 391,170戸
宣言対象地域(7都府県)の社員数  : 1,201人
7都府県で期間中閉鎖した事務所数  : 60営業所
―― 管理戸数が全国にあり、社員・アルバイト合わせて4541名を抱える組織ですから、足並みを揃えることは難しかったのではありませんか?

松本取締役 自宅で仕事ができる環境を整えるのに難儀しました。オーナー様対応を行う「管理スタッフ」には、以前から2in1のパソコンを貸与していましたが、「業務スタッフ」と呼ばれる、いわゆる内勤者はデスクトップで仕事をしていましたから、テレワーク用に、ノートPCと携帯電話を揃える必要がありました。事業戦略企画室が中心となり、約400台の携帯電話とノートPC、それにWi-Fi、トークンを購入し自宅に配送しましたが、この時期は日本中の会社が同じ動きをしていたので、手配には苦労しました。

―― 入居者対応では、「入居者アプリ」がかなり役立ったと聞いています。
入居者様専用アプリ DKマイルーム

松本取締役入居者様とのコミュニケーションについて「入居者様専用アプリ DKマイルーム」が活躍しました。
管理戸数119万戸のうち、現在、約77万人の方に登録をいただいています。アプリ自体は2016年7月にリリースをし、お客様にも定 着しつつあり、問い合わせはオンラインにシフトしてきています。
弊社では、東京と福岡の2箇所にコールセンターがあり、それぞれ120席で、24時間365日、入居者様対応をしています。以前からコールセンターにおけるBCP戦略は練ってきていたものの、緊急事態宣言下では、東京を閉鎖しなければならないという事態になり、コールが福岡に集中しました。そこで、コールセンターのひっ迫した状況をアプリのPUSH配信を通じて入居者の皆さんに通達し、理解をいただきながら、「DKマイルーム」の利用を促進したという流れがあります。

―― 入居者に対し、コールセンターではなくアプリで問い合わせをするよう促したというわけですね。

松本取締役 アプリから入るお客様の連絡は、ダイレクトに担当エリアの管理スタッフの端末に入るという仕組みを構築していました。それがあったので、コールセンターがパンクする、という事態は回避できたと思っています。
アプリのプッシュ配信を活用し、「コールセンターが要員を抑え、規模を縮小して運用していること」などをアナウンスし、できるだけお問い合わせはアプリ経由で行っていただくよう促しました。感覚的には、総コール数は2割程度減ったと思います。
また、ここ数年、FAQを充実させ、入居者様に自己解決していただく仕組みづくりにも力を入れてきました。実は、FAQのページビューは月間100万あります。項目も現在では300まで増やしました。

―― そうした取り組みは、コロナ以前からBCPの一環として行ってきたということでしょうか。
大急ぎでシステム変更をしました。

松本取締役 例えば東京で直下型地震が起きた、または何らかの理由で、東京・福岡、双方のコールセンターが機能しないといった場合を想定し、各営業所に電話が入る仕組みも構築していました。これは本当に良かったと思っています。ただ、IVR*を都道府県、自治体でくくり、受電できるようにはしていたものの、お客様の電話番号から、「●県●●市の●●アパートの何号室に入居中の誰」とポップアップする機能についてはエリアで制限をかけ、他支店は見られないようにしていました。しかしながら、この制限に関しては反対意見が多く、「誰からの電話かわかるようにして欲しい」、という声が相次いだため、4月20日前後に大急ぎでシステム変更をしました。

※IVRは、Interactive Voice Response の略で、自動音声応答装置をいう。顧客から入電があった際、あらかじめ用意された音声による案内や、顧客の入電理由に応じた番号入力でオペレーターへ対応の振り分けを行うシステム。

―― 現場はそうした環境の変化にすぐに対応できていましたか。

松本取締役 不安はありましたが、このところの自然災害、水害や台風、地震等が多く発生したことから、現場の対応力が上がっていたのだと思います。次にこうした方がいい、といった判断力は社員の体に染み付いてきているようで、意外と混乱はなくスムーズに進みました。
これまでに、地震、風水害、津波の災害対策マニュアルは策定していましたが、感染症については未整備だったため、昨年の年明けごろに急遽作りました。コールセンターが2カ所とも閉鎖になることを想定した対策も昨年3月からベンダーと協議を始め、1ヶ月くらいで作りました。ただ、コールセンターの社員が自宅にいても電話を取れる仕組みについてはできておらず、こちらは課題として残っています。

―― 3・11をきっかけに、BCPの重要性が盛んに叫ばれてきましたが、御社の動きには学ぶところが多いです。

キャビネットを捨てたため、スペースが生まれ、ソーシャルディスタンスも確保できました。

松本取締役2019年から事務所のキャビネットに保管している紙の契約書一式を、1年半くらいかけて全件スキャンしてきました。それがちょうど完了したのが、昨年の6月ごろ。端末から契約書などの書類全てが見られるようになったのです。スキャンを始めた当初は正直に言って、終わる日が来ると思えないほど、先の見えない作業でした。
しかしこの電子化が、在宅勤務をする上でかなり役立ちました。また、事務所にあった契約書は全て倉庫に移し強制的にキャビネットを捨てたため、スペースが生まれ、ソーシャルディスタンスも確保できました。この強引なまでの職場改善はトップの決断がないとできませんでした。

―― スキャンの手順はどのようにされたのでしょう?

松本取締役件数からして、普通の文書管理システムではかなりのコストがかかりますから、弊社に合わせたシステムを構築する必要がありました。また、トラフィック量やセキュリティを重視したネットワークの構築など、運用面や情報保護を最大限考慮したシステムを構築しました。
スキャンは各事務所のコピー機を使い、一件一件行っていきました。当初船便で海外に持っていきオフショアでやることも検討しましたが、やはり契約書は弊社にとって宝であり財産ですから、そこは国内どころか事務所からも持ち出すなと。フローを決めた上で、全て手作業でコツコツ、スキャンしました。そうした人件費も含め、それなりに時間とコストはかかりました。紙で管理していると紛失というリスクが常にありますから、これを無くすというトップの強い意志がないと実現できなかったほどに、気の遠くなるような作業でした。

―― 陣頭指揮をとったのはどなたでしょうか?

松本取締役今回の感染症対策と同様、本社の事業戦略企画室(16名)が中心となりましたが、各部も総力を挙げて行いました。指示を出す本社も出社率は20%程度ですから、全員が協力し合わなければなし得なかったことと感じています。

―― 電子化と合わせ押印ルールはどうのように変えましたか?
電子化を急ぎました。

松本取締役押印規定も変えました。まず、押印自体が要るものか要らないものかから各部で議論をし、承認行為についても検討を重ねました。
何をするにしても紙を出力する体質があったので、電子化を急ぎました。
例えば出納業務をする場合であれば、スマートフォンから入力、領収証の登録ができるシステムを導入し、それを上長が見てチェックをするといったルールに変えました。オフィスにいて目の前に上長がいるという環境ではありませんから、誰の印鑑がいるのか、といった権限も整備しました。基本的に4月7日以降、行事はすべてキャンセルしましたから、幹部らは朝からTeamsで集まり、こうした協議を行ってきました。

―― 建物管理について、緊急事態宣言下での対応を教えてください。

松本取締役労働環境の整備が一旦終わると、すぐに建物の消毒に取り掛かりました。
マンションタイプや一階にオートロックあるタイプの物件については、全て消毒を行うよう指示をし、昨年の5月25日に開始して、現在も実行中です。オーナー様からのご要望の有無にかかわらず、弊社で約1000台の消毒液と噴霧器を用意し、各営業所に送りました。そして、エントランス、共用部、エレベーター、ゴミ集積所などの消毒を行っています。また、新規ご入居者様に対しては、除菌ジェルを無償で約130,000本配布しました。コスト増となりましたが、管理会社としてできることはしっかり取り組んでいきます。

―― 昨年4月の時点ではコロナ対策予算はどれくらい計上していたのでしょう。

松本取締役ゼロです。コロナの対策費用はありませんでした。しかし、「今できることは全部やる」というトップの考えがあったので、躊躇なくできたと思います。
おかげで4月20日、業界に先駆けて家賃猶予も発表できました。裏話をすると、突然Teamsで社長より招集があり、「家賃猶予策を至急検討するように」と指示され、「いつまでですか」と聞いたところ、「今直ぐに」と言われました。ですからすぐに入居者様向けのWebページを作り、管理フローも考え、翌日には会社稟議を通過、1週間後にはリリースしました。実際に入居者の皆さんにはかなり喜ばれ、約9000名、家賃にして16億円のお申し込みを受け付けました。

―― コロナ以前の何かを発案して稟議決裁が通り、ニュースリリースに載せる時間軸と、今回のこのコロナ禍でのそれは違いましたか。
必要とされているタイミングでなければ、支援にならない

松本取締役全く違いますね。全く違うメソッドでやっていると思います。今回はある意味、今日準備できたら今日出すというくらいの話です。「必要とされているタイミングでなければ、支援にならない」、という発想が根底にありました。
政府も給付金が5万円になるのか10万円になるのか、という議論をしていましたが、実際に給付されるまでには時間がかかるだろうと思いました。
もちろん、家賃が払えず退去になるのは、オーナー様にとって不利益です。なので「3ヶ月間の家賃猶予」についてもすぐに発表したという形です。

―― オーナー対応はどのようにしていましたか。

松本取締役オーナー様訪問も全て禁止しました。例えばサブリースの更新で「賃料改定」の時期にきている物件であっても、訪問できないことから、コロナが落ち着くまでそのままの費用でお支払いします、としました。
また、「原状回復工事」に関しても、工事関係者間での感染リスクを考慮し、7都道府県について全物件で2ヶ月間工事を止めました。しかしこの間も、借り上げ賃料はオーナー様にお支払いを続けました。原状回復後のチェックに社員が外出することも止めていたので、そうした緊急対応を行った次第です。

―― 毎月の清掃は?

松本取締役毎月1回の敷地の清掃や、有資格者による2ヶ月に1度の定期点検も全てストップしました。オーナー様には各担当者からお電話で伝えていきましたが、ありがたいことに苦情は1件も来ていません。その瞬間、その瞬間で、優先すべきは安全か?清掃か?といった判断が即座にできていたことがオーナー様や入居者様にも伝わっていたのかなと思います。とにかく「感染しない・させない」を徹底しました。

―― 他に発令した大きな決断はありましたか。
今後紙なのかWEB配信なのか

松本取締役5月に発送する用意が整っていた入居者様向けの会報誌があり、すでに100万部の印刷と各戸配布の用意も完了していましたが「非接触」という観点からこちらを止めました。「今届けるべきなのか?」と考えた時、「今ではない」という判断でした。もちろんこの辺りは、今後紙なのかWEB配信なのかという議論につなげていけると思います。

―― コロナ禍で特に多かった入居者からの問い合わせは何でしたか?

松本取締役感覚的に増えたと感じたのは「騒音」です。
ただこれに関しては、人それぞれ受忍限度が異なりますから、スタッフが話をしに行って注意やご協力を促し、それをまたフィードバックするというのを繰り返しました。「お互い様で理解をしていただく」という努力ですよね。

―― スタッフ一人あたりの担当物件数はどれくらいですか。

松本取締役710戸です。実は今、どんどん減らしていて、昨年は850戸でしたが、700戸まで減らすつもりで動いています。その過程で今ようやく710戸まできました。減らす理由は、1戸ずつのお客様対応を充実させるためで、現場主義である社長からの厳命です。
分業や電子化で仕事自体はスリム化していますが、ホテルなどと同じで、お客様の求めるサービス水準は上がっていますから、それに対応する体制を作ろうとしています。人にしかできない仕事をしっかりやっていく、という方針です。

―― 退去の立ち会いはどうしていますか。

松本取締役7割くらいは、立ち会わずに鍵だけ返していただいています。立ち会いをせずに、退去の精算交渉が後日となり長引くケースもありますが、立会不要を選択されるお客様が増えている中で、リスクは考えながらも時流に合わせていくことが必要だと思っています。

―― 初めて尽くしで大変な1年でしたね。

松本取締役どの企業さんも大変だったとは思います。何もかも初めてのことが多かったのですから。
ただおかげさまで退去が少なく、入居率は下がらずに維持できていることはよかったです。

ペーパーレスにしろ、電子契約にしろ、これらはコロナに関わらず進めていかなければならない課題です。
リモートワークもそうした課題の一つでしたが、コロナにより一気に取り組むことができました。ただ、それにより本当に生産性が上がっているのか、そうではないのか、という検証はこれから必要になっていくでしょう。宣言が解除された現在もリモートワークは継続しており、今日も本社勤務180名のうち出社しているのは15名程度という状況です。こうした事実を前提に、新しい働き方、業務効率の最大化を考えていきたいと思っています。

今日も本社勤務180名のうち出社しているのは15名程度という状況です。

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